貧血、骨折、無月経、駅伝やフィギュアに懸ける女性たちが感動的な理由 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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貧血、骨折、無月経、駅伝やフィギュアに懸ける女性たちが感動的な理由

青春や人生を懸ける女性たち

 フィギュアの世界では、昨年12月、平昌五輪シングル金メダリストのアリーナ・ザギトワが活動休止を表明した。本人は「やる気が起きない」と告白したが、体型の変化により上手く跳べなくなったことが原因とも指摘されている。さらに、ロシアでは今、ジュニアから転向したばかりの15~16歳の逸材たちが世界を席巻中。彼女は17歳にして世代交代の波にのまれたかたちだ。

 ザギトワといえば、五輪直後の一昨年3月「サンデーLIVE!」で私生活を公開していた。田舎から都会に出てきて、祖母と二人暮らしの彼女は夕食のとき、こんな会話を交わしていたものだ。

「ちょっとでも食べたら? 半分だけ」「ダメ、コーチが見てるから」「大丈夫大丈夫、コーチは見ないわよ」「ダメよ、おばあちゃんが食べてよ」

 本人いわく「食べ過ぎて体重が増えると、ジャンプを跳ぶのが難しくなるの。もし食べるなら朝」ということで、そのあとはチョコレートなどをつまんで空腹をしのぐ。「夜はフルーツだって食べちゃダメなの。お茶だけ」と、ひたすら我慢して、せめてものご褒美は、たまに食べる「好物の寿司ロール」だ。

「今のまま活躍できれば、両親をこっちに呼べるかもしれません。それを目標にしています」

 とも語っていたが、目標が達成できたかどうかはわからない。

 ザギトワの前にロシアのエースだったユリア・リプニツカヤも、体型キープに苦しみ、19歳で拒食症を理由に引退した。なお、彼女は現役時代、拒食症から復活した鈴木明子への尊敬の念を口にしたことがある。

 また、米国のグレーシー・ゴールドは平昌五輪出場を断念する際「うつ、不安障害、摂食障害の治療を続けている」ことを理由に挙げた。その前年には「この競技は痩せた人のスポーツ。今の私はそうではない」と記者に漏らしていたという。

 かと思えば、体型は維持できていたものの、それが災いしてケガをした人もいる。「試合で重く感じるのは嫌だと思って、あまり食べないようにしていた」という宮原知子は、152センチで37キロ、体脂肪率6%を保っていたが、疲労骨折をした。これを機に、骨を強くするため、食生活などを変えて体重や体脂肪率を上げ、復活を果たすことになる。

 とまあ、フィギュアの世界でも陸上長距離と同じようなことが起きているわけだ。ただ、こうした競技だからこそ、人気があるともいえる。選手寿命の短さだったり、ピークが訪れる早さだったり、いわば期間限定的な儚さが、若い女性ならではの一途さやけなげさとあいまって、独特の魅力を生むのである。

 ちなみに、こうした競技の女性たちには「エネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」が目立つとされ、この3要素は関連し合ってもいる。このうち「無月経」については、実業団の陸上長距離選手の約半数が当てはまるというデータも存在するほどだ。

 しかし、五輪のチームドクターをしたこともある婦人科医は以前、こんな話をしてくれた。

「激しいトレーニングをしている体は妊娠には向かないわけですね。防御本能として生殖機能を切り捨てているともいえる。運動をするための合目的性として、月経がなくなるわけですよ。もっとも、それは女性であることの根本原則には反しているんですが」

 これには、目からウロコが落ちた気がしたものだ。アスリートとしては、それもアリなのだと。そして、そのような世界に青春や人生を懸ける女性たちには畏敬の念を抱かずにいられない。犠牲の先にあるそれぞれの夢に近づけるよう、願うばかりである。

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『痩せ姫 生きづらさの果てに』
エフ=宝泉薫  (著)

 

女性が「細さ」にこだわる本当の理由とは?

人類の進化のスピードより、ずっと速く進んでしまう時代に命がけで追いすがる「未来のイヴ」たちの記憶
————中野信子(脳科学者・医学博士)推薦

瘦せることがすべて、そんな生き方もあっていい。居場所なき少数派のためのサンクチュアリがここにある。
健康至上主義的現代の奇書にして、食と性が大混乱をきたした新たな時代のバイブル。

摂食障害。この病気はときに「緩慢なる自殺」だともいわれます。それはたしかに、ひとつの傾向を言い当てているでしょう。食事を制限したり、排出したりして、どんどん瘦せていく、あるいは、瘦せすぎで居続けようとする場合はもとより、たとえ瘦せていなくても、嘔吐や下剤への依存がひどい場合などは、自ら死に近づこうとしているように見えてもおかしくはありません。しかし、こんな見方もできます。

瘦せ姫は「死なない」ために、病んでいるのではないかと。今すぐにでも死んでしまいたいほど、つらい状況のなかで、なんとか生き延びるために「瘦せること」を選んでいる、というところもあると思うのです。
(「まえがき」より)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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瘦せ姫 生きづらさの果てに
  • エフ=宝泉薫
  • 2016.09.10